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ドイツ語・英語の誤訳と引用文献

翻訳

特許を取得するためには、先ず特許出願を行い、特許庁の審査官による審査を受ける必要があります。審査官は、願書に添付された特許請求の範囲に記載された発明を理解し、それを否定し得る似たような発明をサーチします。審査官は、サーチの結果から、本件特許出願よりも先に公開されて世に知れ渡った発明が記載された文献(すなわち、引用文献)を引用して、本発明の新規性や進歩性を否定します。

このとき、引用文献の日本語が正確に記載されていて、技術的にも不明点が無ければ問題ないのですが、引用文献の日本語が不明確で理解できない場合も多々あります。

例えば、一文が長文で記載されているため理解が難しかったり、主語が省略されているため主語が分からなかったりします。

また、一見何の違和感もない場合でも、その引用文献が外国語からの日本語の翻訳文だった場合には注意が必要です。というのも、翻訳文の精度は翻訳者の力量に左右されるため、日本語の原文である外国語に当たってみると、実際はそんな内容は記載されておらず、誤訳だったりします。この場合、誤訳によってその引用文献に記載された内容が、たまたま本発明を否定し得るものになっていたということです。

もちろん、審査官は、その引用文献に誤訳が生じていることなど知りません。そこで、こちらとしては、その原文の記載に遡り、その引用文献には本発明を否定し得る内容は記載されていない旨を審査官に説明します。

また、この引用文献が既に特許されている場合、この特許は間違った内容で許可されていることにもなるので、翻訳は特許取得にとって極めて重要です。

翻訳者にとって慣れれば決して難しくない翻訳ですが、英語の場合に関係代名詞が掛かっている先行詞を間違えてしまうと、とんでもない誤訳となってしまいます。一方で、ドイツ語の場合は、文法が厳格なため、文法構造は複雑ですが、関係代名詞が掛かっている先行詞を見つけやすい場合が多いです。

特許権侵害と権利行使について~その2の続き~

急発進防止装置を付けて高速道路を走る

Cさんの特許権をD社が侵害している可能性があったため、D社に対して警告状を送付することとなりました。

警告状は、その後侵害訴訟に発展した場合に、不意打ちで提訴したわけではなく相手に対してきちんと警告していたことの証明であり、また相手にそんな特許の存在を知らなかったと白を切られることを防止するものでもあります。

そして、後日D社からの回答がありましたが、そこには「D社製品は「ドライバーが急発進防止モードとノーマルモードを切り替える切り替えスイッチ」を備えていないため、侵害は成立しない」旨記載されていました。こちらとしては、この回答は予想通りのものでした。

しかしながら、D社製品を車に取り付けた状態で、アクセルペダルや車の電源スイッチなどを特定の順序で操作すると、急発進防止モードが解除されてノーマルモードに切り替わるため、切り替えスイッチが実質的に備えられていることになります。これをD社自身が認識していたかどうかは定かではないものの、2回目の警告状をD社に送付し、その中で特定の操作により急発進防止モードが解除されてノーマルモードに切り替わることを示すことにしました。

そして、後日D社からの2回目の回答がありましたが、そこには「運転中に、急発進防止モードを解除してノーマルモードに切り替えるために、一度停車して複雑なアクセルペダルや車の電源スイッチの操作をすることは現実的ではない。そもそも、切り替えスイッチは備えていない。」旨記載されていました。

残念ながらこちらとしては、これに対する有効な反論が見つかりませんでした。

D社製品は、いわゆる切り替えスイッチを有しておらず、一度急発進防止装置を車に取り付けたら、それ以降は急発進防止モードが適用されてしまうため、少し強く加速したり、坂道で少し強めにアクセルペダルを踏んだりしただけで、発進が抑止されてしまいます。そのため、ユーザからすれば使いにくい製品であるにもかかわらず、このような商品にとって重要な「切り替えスイッチ」という機能を欠いているため、特許の網にかからないという、なんともむず痒い結果となりました。

特許権侵害と権利行使について~その2~

車の急発進防止

ある時、特許権者であるクライアントのCさんから、D社が自社の特許権侵害をしている可能性があるので、できればD社による製品の製造販売を止めさせたいと相談を受けました。

最近、高齢のドライバーが車でコンビニに突っ込んだり、繁華街を暴走して人をはねたりするニュースをよく見ますが、Cさんは、自動車の急発進防止装置に関する特許を持っています。急発進防止装置は、ドライバーが誤ってアクセルを踏み込んだ時に異常を検知して急発進させない機能を有するため、このような事故を防止できます。

一般に、他社の製品の製造販売が自社の特許権侵害になるかどうかの判断のために、D社の製品(イ号製品という)と自社の特許権を比較しなければなりません。

Cさんはすでに自分の持っている特許と、D社のイ号製品を比較・検証しており、イ号製品は、特許の5つほどの構成要件のうち、1つだけは満たさないかもしれないと考えていました。特許が5つの構成要件を有するとは、つまり、その特許が成立するためにはそれら5つの特徴をすべて充足している必要があり、侵害に当てはめれば、イ号製品が5つの特徴をすべて充足していなければ、特許権侵害は成立しません。

満たさないかもしれないと思われた1つの構成要件とは、「ドライバーが急発進防止モードとノーマルモードを切り替える切り替えスイッチ」でした。急発進防止モードで走行中は、アクセルペダルの急な踏み込みは異常と判断されて、急発進が抑制されますが、ノーマルモードでは急発進が抑制されません。ノーマルモードは、坂道発進などでアクセルペダルの踏み込みが必要な場合にも、通常通り発進できるためのものです。

しかし、D社の製品はこのような切り替えスイッチを有しておらず、一度急発進防止装置を車に取り付けたら、永続的に、アクセルペダルの急な踏み込みが異常と判断され、急発進が抑制されるというものでした。

ところが、Cさんは、D社の製品を車に取り付けた状態で、アクセルペダルや車の電源スイッチなどを特定の順序で操作すると、急発進防止モードが解除されてノーマルモードに切り替わることに気づきました。これは、D社の製品が実質的に切り替えスイッチを有していることに相当します。

そこで、特許権侵害の成立が疑われるため、D社に対して警告状を送付することとなりました。

からまないハンガーで小学4年生の女の子が特許取得

小学4年生の女の子が「からまないハンガー」を発明し、晴れて特許になったそうです。どんなハンガーかと言うと、ハンガーに付けるクリップを薄型のシリコーン製にし、磁石を取り付け、さらにハンガーの上部にもクリップをつけたそうです。これにより、衣服を掛ける肩部分が細いハンガーは、ズボン類を吊るすクリップが他のハンガーと絡まり、取り出しにくかったという問題を解決できました。さらに、片付けるときはハンガー同士が磁石でくっつき、整理整頓しやすくなるそうです。

小学生が特許を取得するというニュースは時々伝えられていますが、自分は特許の仕事に携わりながら特許権は持っておらず、彼らに頭が下がる思いです。

なぜ、彼らに特許発明ができて、自分にはできないのか。その答えは明白です。つまり、彼らは学校生活や家での生活において何か問題に直面したときに、こうすればこの問題を解決できるという経験をしていますが、自分はそういう経験をしていないからです。少し小難しく言えば、その人が或る事柄について問題を認識し、その問題を解決できる工夫をひらめいたことが発明に繋がります。

例えば主婦・主夫の方は、日々直面している料理・掃除・洗濯などの家事やその他の名も無き家事において、様々な不都合を発見しているはずなので、少し余裕があれば、この器具のここを変更すれば問題解決できて、もっと便利になるということに気づくことができます。

或る個人発明家の主婦の方は、日々の暮らしの中で気づいた問題点を解決する発明を複数行い、特許を取得し、その特許を基にこういう商品が作れるので開発してくれないかと企業に自ら売り込みに行きます。そして、その商品が売れた暁にはその販売額の何%かを彼女の取り分とする契約を開発会社と交わします。彼女にとって、発明と特許と権利活用が完全に一つながりなっており、世の中のためになる発明を行うばかりでなく、特許が収入を支える柱となっており、何一つ無駄がありません。

我々弁理士の仕事は、こういった発明を初めて世に送り出すことに貢献できるものであり、嬉しい限りです。

特許権侵害と権利行使について~その1~

旋盤の側面図

時々、特許権者であるクライアントから、自社の特許が他社によって侵害されているあるいは他社が自社製品を製造販売しているので、どうにかならないかと相談を受けることがあります。このような場合、特許権者は自分の特許が侵害されたと信じており、かなり興奮されています。

一般に、他社の製品の製造販売が自社の特許権侵害になるかどうかの判断のために、他社の製品(イ号製品という)と自社の特許権を比較しなければなりません。

あるケースでは、特許権者(Aさん)は、他社(B社)が類似商品を作っていることを発見したため、一刻も早く何とかしなければと思い、事務所に駆け込まれて来ました。しかし、Aさんは、自社の特許権の内容をきちんと把握していませんでした。そこで、Aさんがどんな特許を持っているのかを改めて確認すると、特許を受けたものは或る切削工具であり、請求項1には切削工具に取り付けられた刃先の角度に関する数値限定(具体的には、角度が25°~30°など)が記載されています。このような数値限定を行うことは、本発明と引用文献との違いを明確にするためには有効ですが、つまり進歩性をクリアするためには有効ですが、特許後の権利範囲は狭くなってしまいます。

確かに、B社製の切削工具の外観・見た目は、Aさんの特許明細書の実施形態に開示された具体例の外観・見た目と似ていますが、そもそも比較すべきは実施形態ではなく、特許請求の範囲の請求項1です。

そこで、B社製の工具の刃先の角度を精密な測定器具で測定したところ、その角度はなんと24.9°でした。よって、「25°~30°」の要件を満たさず、権利侵害にはなりません。B社製の切削工具の刃先の角度は、本件特許の権利範囲外となるような、たまたま近い数値だったとも考えられますが、実際は、B社はAさんの特許権の存在を認識していて、特許件侵害を回避するよう刃先の角度を変更したと思われます。

やはり、請求項1で数値限定を行うと他社に特許件侵害を回避され易く、数値限定せずに特許を取ることの重要性を再認識しました。